がん研所長 中村祐輔氏の「”日本の科学力は高い” は幻想」という一文の抜粋・・・
日本は科学力が高いはずなのにどうして新型コロナウイルスワクチンができないのか？」という疑問を大方が持っている。この答えは簡単で「日本の科学力は高くない」一例を挙げれば日本の医薬品の貿易赤字は2015年度以降６年連続で２兆円を超えている。2000年度の医薬品貿易赤字額は２千億円超だったので20年間で赤字額が約10倍に膨らんだことになる。この数字だけでも日本の科学力の危機的状況を理解するに十分な数字だ。
日本国内でコロナワクチン開発ができていない理由はいくつかあるが重要な３点、まずはバイオテロ対策である。ウイルスや細菌の遺伝子改変は技術的には容易なのでバイオテロ対策は国として不可欠である。しかし太平を貪（むさぼ）っている日本はあまりにも危機意識が欠落している。２つ目、日本では「免疫療法は怪しい」という固定観念にとらわれて科学的思考に欠けている人たちが科学の進歩を妨げている。ゲノム研究など多様な遺伝的素因やがんは国際協力で解明しようと云うのが世界の潮流だが、しかしこの十数年間ゲノム研究を軽視したため国際協調から取り残された。そして最も重要な要因は評価システムにおける公平性公正性の欠如である。日本の研究費などの採否の審査制度が大きく劣っているから若手研究者の独創的革新的な発想を正しく評価できない。科学力の発展も衰退も、すべからく「人」にある。