銃・病原菌・鉄」の著書で知られる米国生物地理学者ジャレド・ダイアモンド博士へのインタビュー記事はこれまで読んだ中で一番説得力があった。
新型コロナウイルスは実は特別なウイルスではない。致死率は2%台との指摘もあり、過去に猛威を振るった天然痘の30~50%や流行当初はほぼ100%だったエイズなどと比べて低い。感染力は強いがむしろやや穏やかなウイルスと言える。世界中に感染が広がったという意味で今回は1918~19年のインフルエンザ、通称「スペイン風邪」以来の大規模なパンデミックとなったが当時との大きな違いは2点ある。まず世界の人口が当時の約18億人から現在は約77億人と4倍以上に増加したことだ。もう一つは交通網の発達だ。グローバル化が進み国を越えて頻繁に移動するようになったことで感染拡大のペースがはるかに速くなった。新型コロナは流行の波が再来する可能性もあり終息には数年かかるかもしれない。そうなれば最終的な死者数は(推計5000万人)スペイン風邪を上回る恐れもある。
パンデミックを予測し警告を発していた研究機関は多かった。にもかかわらず、ほとんどの国は備えていなかった。唯一、準備ができていたと言えるのは北欧のフィンランドだ。背景には第二次世界大戦で国境を接する旧ソ連に侵攻され多大な犠牲を払って辛うじて独立を保った教訓がある。それ以来、フィンランド政府は弱小国としての自覚と自国防衛の意識を高め、戦争のみならず感染症を含むさまざまなリスクに対処するために物資や食料を備蓄し危機管理体制を強化してきた。
欧州で興味深いのはスウェーデンの対応だ。都市封鎖をせず、小・中学校や飲食店も閉鎖しない独自路線を続ける。この手法は「集団免疫」の獲得を目指す「水ぼうそうパーティー」に似ている。ただ水ぼうそうは子供の致死率がかなり低いが新型コロナは若者が死亡するケースが少なくない。スウェーデンの作戦が成功するかどうかは7月ごろまで待たないと評価できない。
日本の状況については憂慮している。日本政府は地震対策には力を入れているが原子力発電所の事故と同様、感染症への備えは不十分だった。ロックダウンもせず感染経路の追跡も緩いように思える。安倍首相が「自国だけは例外」と考えているなら国のリーダーとして不適切だ。日本は重症化しやすい高齢者の割合が高く二波三波の恐れは十分に高いからだ。
一足先に感染を封じ込めた(と言う)中国が世界的な影響力を増すことを警戒する声もあるが、私はそうは思わない。民主主義国家ではなくその強権体質を世界はよく見ている。何より発生国としての反省がなく、いずれはまた新型ウイルスをまき散らすだろうーーー
5月 17
2020
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